沼と森のこと

沼と森の小さな紙芝居(2017)Fuku Ikeda, India ink, mineral pigment, 14x21cm
沼と森の小さな紙芝居(2017)Fuku Ikeda, India ink, mineral pigment, 14x21cm

 

あの丘は不思議な丘で、

川もないのに、中腹のそこかしこに小さな沼がある。

どこからも流れ込まない、

どこへも流れていかない、

大きな水たまりみたいに、沼がたくさんある。

 

昔、調べた人がいたらしいよ、

なぜなのかって。

一年かけて、毎月水の深さをみたり、

水素イオン濃度を測ったり、

溶けている鉱物も細かく調べたらしいよ。

結論は、水が湧いているところってことだった。

あれは、大きな井戸みたいなもの。

自然にできた井戸。

 

沼と森の小さな紙芝居(2017)Fuku Ikeda, India ink, mineral pigment, 14x21cm
沼と森の小さな紙芝居(2017)Fuku Ikeda, India ink, mineral pigment, 14x21cm

 

けれど、あのちょうど中腹にある、あの大きな池、

何か棲んでるな。そう思わない?

おとうさん、言ってたな、あの池だけは、泳いだことがないって。

怖かったって。

いつも、見に行くと、水面に大きな黒い塊が動いてる。

昔、アイヌのカンナカムイのお話を聞いて、あの池にいつも見える、

あの大きな黒い塊は怪魚なんじゃないかと思った。

沼と森の小さな紙芝居(2017)Fuku Ikeda, India ink, mineral pigment, 14x21cm
沼と森の小さな紙芝居(2017)Fuku Ikeda, India ink, mineral pigment, 14x21cm

 

 

その池をちょっと行けば神社がある。

その神社にも、小さな沼が参道を上って右手にある。

あの沼の中には、牛がいっぴき入っている。

おばあちゃんが言ってた。

みんなで、引っ張ったけど、どうしても、出してあげられなかったって。

沼と森の小さな紙芝居(2017)Fuku Ikeda, India ink, mineral pigment, 14x21cm
沼と森の小さな紙芝居(2017)Fuku Ikeda, India ink, mineral pigment, 14x21cm

 

 

あの森は、いつ行っても、本当に静か。

時々、孟宗竹が風に押されてぶつかりあって、

カンと乾いた音を響かせる。

あれは、精霊が現れる前触れ。

昼間も薄暗い緑の中で、あなたの頬をなでてくれるあの風は、

いつもあなたを守ってくれている。

あなたは覚えていないだろうけど、

あなたが生まれた時に、初めてごあいさつした森だって。